本研究科黒瀬一弘教授が第7回進化経済学会学会賞を受賞しました!

2022.09.21

本研究科黒瀬一弘教授が第7回進化経済学会学会賞を受賞しました。

進化経済学会学会賞は、進化経済学の発展に貢献する会員の研究を顕彰するため、「進化経済学会学会賞Prize of Japan Association for Evolutionary Economics: JAFEE Prize」を設けられています。

第7回進化経済学会学会賞決定のお知らせ  2022年9月18日

進化経済学会賞

授賞作品タイトル:”A two‑class economy from the multi‑sectoral perspective: the controversy between Pasinetti and Meade–Hahn–Samuelson–Modigliani revisited.” Evolutionary and Institutional Economics Review, 2022,19(1), 239-270.

著者名: Kazuhiro Kurose(黒瀬 一弘)

授賞理由

黒瀬一弘会員の論文は,異質な資本と商品がある多部門モデルと,労働者と資本家の最適化とを統合することで,かつてケンブリッジ資本論争において,その妥当性をめぐって検討されたパシネッティ均衡,双対均衡,あるいは反双対均衡の存在を再検討することを試みたものである。

これらの均衡が成立する条件は,先行研究でも検討されてきたが,本論文の独創性あるいは新奇性として,次の4点が挙げられる。第1に,多部門モデルにおいて,無限視野,世代重複のそれぞれで生きる労働者と資本家の最適化行動をミクロ的基礎として導入しても,パシネッティ均衡と双対均衡が存在しうることを新たに証明したこと,第2に,均斉成長における両階級の貯蓄率を時間選好率から導出し,これに関連付けてケンブリッジ方程式を特徴づけた点,第3に,そのうえで,利潤率の変化に伴う技術の切り替えにより,資本集約度が新古典派の想定と異なる方向に変化する場合があることを理論と数値計算によって厳密に示した点,以上をもって第4に,資本を本源的生産要素として投入する新古典派生産関数に替わる所得と富の分配を分析するモデルを構築する意義を提示した点にある。

本論文は,ケンブリッジ資本論争での争点を再考し,資本逆行といった新古典派経済学とは異なる含意の導出や,その現代的な意味づけを新しい形で行った研究として,進化経済学の発展,とりわけ生産と価値および分配の基礎理論の一つを提供する貢献をしたものと言える。これらの貢献は,新しい経済学の構築を目指す本学会会員の研究成果として高く評価できるのみならず,これにより多部門からなる経済の動学分析へのさらなる関心の高まりと波及を通じて,進化経済学の今後の発展も期待できる。 

Japan Association for Evolutionary Economics, Since 1997

  • 進化経済学会とは

進化経済学会は、社会科学の持つ可能性を追求し、いまなお明確な説明がなされていない社会経済の特性を明らかにするために1996年に設立されました。進化経済学では、多面的な社会をとらえるために方法論的な限定を行わず、テーマごとに様々な分野の研究者が集まってそれぞれの知見を交換しながら、課題の解決に取り組んでいます。

会員のバックグラウンドは、経済学、経営学、会計学、社会学などの社会科学にとどまらず、心理学、物理学、生物学、コンピュータ・サイエンスなど文理全域にまたがっています。対象も、国際政治経済の研究や歴史的に有名な抽象理論の再検討から、小さな商店街の活性化や中小企業の臨床的研究など具体的な問題まで社会にかかわるあらゆる問題を取り扱っています。

進化経済学会のメンバーに共通する一つの視点は、社会を動的なものとして捉えること、そして動的なシステムは静的なシステムの連続では近似できないということです。そして、単に表面的な変化だけではなく、変化するものの中で受け継がれていく情報にも着目します。この視点から制度や技術、そして人を理解し、われわれの住む社会への説明を試みています。

このようなアプローチを重ねることで、これまでの経済学では解決できなかった様々な課題に対する答えを模索しています。